民話

夜なきのナギの木

 西勢の里、黒駒神社の境内に、大きなナギの木が一本あります。このナギの木から約30m離れたところには、やや小さめのナギの木がもう一本生えています。
 この木は、南の海から流れ着いたともいわれ、たいそう珍しい木です。村人はこの大小2本のナギの木を『夫婦の木』と呼び、今も神社にお参りするたびにナギの木を見上げています。

 その昔、若狭の殿様が、暑い夏の日に地方めぐりをされてこのお宮に立ち寄られ、一休みされたとき、この珍しいナギの木が目にとまり、小さいほうのナギの木をお城に持ち帰り、城内に植えました。
 すると、その木が里を離れた悲しさに毎晩、毎晩、夜泣きをするので、殿様たちは夜も寝られずに困り果てました。そこで、これは元の地に返すのが一番良いと考え、西勢の黒駒神社に返すことになりました。
 その使命を申し付かった侍たちは、「手数をかけるやつだ。」と言って、神社の裏の岩にナギの木を投げつけて帰りました。しばらくすると、その岩の一角がくずれ、ひとかけらの岩がナギの木の幹に食い込んでいきました。ナギの木は、今もその痛々しい姿を残しています。

 元の地に返されたナギの木は、こうした昔の話を秘めながら、長い年月の間、風雪にも耐え、樹木の勢いは衰えず現在も生き生きと生い茂っています。
 なお、大きいほうのナギの木は、現在、県指定の天然記念物になっています。

【西勢区】